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見え方の困り感を都合よく利用する風潮—“見え方の構造”を正しく扱うために

  • 執筆者の写真: ジョイビジョン奈良.OptMatsumoto(1級.眼鏡作製技能士)
    ジョイビジョン奈良.OptMatsumoto(1級.眼鏡作製技能士)
  • 11月21日
  • 読了時間: 4分
“構造を知らぬまま授かるメガネ”が、今日も量産されている。
“構造を知らぬまま授かるメガネ”が、今日も量産されている。

1. 「見え方の困り感」が商品化していく時代に


最近、「両眼視」「プリズム」「ビジョントレーニング」という言葉を耳にする機会が増えています。

“見え方の困り感”に関心を持つ人が増えていることは、社会にとって確かな前進だと思います。

けれど、その広がりの中には少し奇妙な現象もあります。


「光の波動が整う」「エネルギーが上がる」といった、感覚的スピリチュアルと視覚科学が混線した世界観が生まれているのです。


もちろん、感覚を大切にすること自体は悪いことではありません。

しかし、“気持ちいい”“なんか合う”という直感を、検証を通らない信念や商材にすり替えてしまうことが問題です。


見え方の困り感は、確かに改善の入口になります。

しかしその一方で、「よくなりそう」という希望が、構造的理解を飛び越えて“売りやすい言葉”に変わる瞬間があります。

「プリズムを入れればスッキリする」

「トレーニングで集中力が上がる」

「カラーレンズで神秘性や奇跡の演出」

そんな短絡的な説明が、人の神経や認知の構造をかえって乱してしまうこともあるのです。


2. ヒューリスティックな文化が見落とす構造


ヒューリスティック(直感的思考)は、私たちが日常をスムーズに生きるための便利な仕組みです。


人はすべてを論理で考えてはいられません。


しかし、その“便利さ”が過剰になると、印象だけで眼鏡やアプローチを決めてしまう危うさが生まれます。


眼科や眼鏡店でも、数値や一部の検査項目だけで度数を決める“安易な処方”が少なくありません。


どちらも「なんとなく良くなりそう」という感覚的判断に支配されていて、本来あるべき“構造理解のプロセス”が抜け落ちています。


人の視覚は、単なる入力装置ではありません。


光をどう受け取り、どう意味づけ、どう行動に変換するか。


その一連のプロセスを理解しないまま「見えるようにする」ことは、設計図を見ずに建物を補修するようなものです。


3. 根拠なき信仰と“形だけの刃”


近年、“感覚の神格化”が進んでいます。


たとえば、カラーレンズひとつで「波長が整う」「心が軽くなる」と断言するような発言。

その瞬間、科学は祈りにすり替わってしまいます。


光学フィルターは、本来、情報を整えるための物理的な装置です。


けれど、それを“心を癒やす手段”や“運気を上げる道具”のように扱い始めたとき、そこに根拠や構造はなく、感覚の信仰装置へと変わってしまうのです。

プリズムやトレーニングを、感覚の延長で扱えば、それは“形だけの刃”を振り回しているようなものです。


外見は整っていても、中身(根拠・構造・責任)が伴わなければ、その刃は思わぬところで誰かの神経を傷つけてしまいます。


4. 「整える」という言葉に潜む逃避


「整える」「波動を高める」「エネルギーを上げる」——

こうした言葉があふれる時代です。


しかし多くの場合、それは“考えることをやめる”ための言葉にもなっています。

本当の整いとは、ズレの意味を理解し、再構築することです。


つまり、構造を掴み直す作業です。


それは気持ちよいものではありませんが、確かな変化を生みます。

“気持ちよさ”だけを追う整いは、構造を失う快楽にすぎません。


5. 構造的に“視る”ということ


“視る”とは、光を感じることではなく、意味を読み取ることです。


眼球運動・両眼視・感覚統合・認知・情動。


それらは分離できないひとつの構造として働いています。


優れたテスターとは、この構造を「数値」ではなく「関係」として読み解ける人だと思います。


プリズムやトレーニング、そして眼鏡は、あくまでお道具にすぎません。


お道具に支配され、ラベルを貼るところで終わるのが“アマチュア”。

お道具を理解し、構造をデザインできるのが“プロフェッショナル”です。


そして本来、眼鏡とは——

その人の“見え方”を変えるためではなく、見え方の中に潜む意味を一緒に読み解くための装置だと感じています。


6. 結び——構造に還る勇気


「良かれと思って」行うことが、誰かの神経や意味づけを乱すことがあります。

けれどそれは、誰もが陥る自然なヒューリスティックの罠です。

だからこそ、私たちは“構造”に立ち戻る必要があります。


感覚的な支援や印象的な処方の向こうにある、見え方・感じ方・意味づけの全体像を見据えることが大切です。


【あとがき】

両眼視機能検査やレンズ設計は、単なる「目の仕事」ではありません。

それは、“人が世界をどう体験しているか”を読み解く営みです。

“見え方の困り感”を都合よく利用するのではなく、その中に潜む構造を誠実に見つめること。

それが、いま求められている“視覚のやさしさ”のあり方だと感じています。

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JoyVision奈良 Opt Matsumoto

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国家資格.1級.眼鏡作製技能士

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