ソフトフォーカスで生きる眼 ── 焦点をゆるめると見えてくる世界
- ジョイビジョン奈良.OptMatsumoto(1級.眼鏡作製技能士)

- 11月1日
- 読了時間: 3分
人の眼は、一見すると“世界をくっきり映すカメラ”のように思われています。
実際には、私たちは一点しか明瞭に見ていません。
視力表の一文字を見つめるとき、ほかの文字は少しぼやけて見えます。
これは眼の構造上の特徴で、「黄斑中心窩(おうはんちゅうしんか)」という直径わずか1.5mmの部分だけが高解像度になっているからです。
言い換えれば、“人間の眼は焦点を選ぶ生き物”。
それ以外の世界は、いつも少しピントが外れた“ソフトフォーカス”の状態にあります。
■ 焦点を合わせることと、ゆるめること
眼の焦点を合わせることは、目的を定めることに似ています。
「ここに集中する」「これを見極める」。
それは生きるうえでとても大切な力です。
けれど、焦点を合わせすぎると、視野の外にある“全体”を見失ってしまうことがあります。
たとえば「見えにくい」と感じたとき、多くの人は“見よう”とする力を強めます。
でも実は、ピントをゆるめて、少し離れて見ることで、見え方が安定することも少なくありません。
焦点を「合わせること」と「ゆるめること」。
その両方が、健康な“視る”のバランスをつくります。
■ 思考もまた、フォーカスの構造をもっている
不思議なことに、私たちの思考も、眼と同じ構造をしています。
悩みや不安にフォーカスしすぎると、そのことばかりが視界を占めて、他の可能性が見えなくなってしまう。
心理学ではこれを「白熊問題」と呼びます。
「白熊を考えるな」と言われるほど、白熊のことが頭に浮かんでしまう──。
つまり、意識も焦点を合わせる装置なのです。
そして、焦点を動かせるかどうかが、“心の柔軟性”を決めています。
■ 没頭すると、焦点は自然に動き出す
一方で、人が好きなことに夢中になっているとき、頭の中の問題は不思議と小さくなります。
何かを創っているとき、手を動かしているとき、焦点は「問題」ではなく「プロセス」に移っている。
それは視覚でいえば、一点を凝視するのではなく、全体をふわっと捉える“ソフトフォーカス”の状態です。
このとき脳は、緊張をほどきながら自然に調整を始めます。
結果として、「気づけば解決していた」という状態が生まれます。
■ ソフトフォーカスで“見える”こと
一点を見つめることは大切です。
でも、ときにはピントを少しゆるめて、周辺の世界や、自分の内側の変化を感じてみること。
それが「ソフトフォーカスで生きる」ということだと思います。
ジョイビジョン奈良・OptMatsumotoでは、視覚だけでなく、感覚・認知・心理の“焦点の構造”に着目し、
その人が“見える”だけでなく、“わかる・伝わる”までを支援しています。
焦点を合わせる力と、ゆるめる力。
その両方を育てることが、ほんとうの「視る力」につながります。
■ 一言まとめ
ソフトフォーカスとは、焦点をあえてゆるめる勇気。
世界は、少しぼやけたところから見えることもある。
※本記事は視覚科学と心理学の構造をもとにした一般的な考察です。医療行為や宗教的内容とは関係ありません。




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